このブログのテーマは「隠居」です。
サカモト(仮)は40歳で隠居することを目指しています。
が、20代で既に隠居的生活を送られている隠居界の若きスーパースターがいらっしゃるのです。
それが『20代で隠居』の著者、大原扁理さん。
扁理さんは高校卒業から3年間のひきこもり、その後の世界一周、そしてバイトなどで社会の荒波に揉まれた経験を経て、20代にして東京は多摩で隠居生活を送られているという異色の経歴の持ち主です。
やっぱり隠居志望としてはですね、同年代のスーパースターのご活躍を拝見しないわけにはいきませんからね。
読みながら黄色い声を挙げるつもりで買いましたよ。
「よっご隠居!粋だねぇ!」ってね。
隠居生活のすべてが公開されている
この本のおもしろいところは、扁理さんの隠居生活の様子が丸ごと書かれていることです。
隠居に至るまでの経緯、隠居生活の一日、毎月の詳細な生活費、食事のこと、人付き合いのコツ、性のこと・・・などなど、「隠居何それおいしいの?」という人にも隠居生活がリアルに分かるように書かれています。
そして表紙のかわいいキャラの絵にも現れているように、ユーモアあふれる文章で書かれているのでスラスラと楽しく読めてしまいます。
例えば以下の文章。
あ、冬はくちびるが乾燥して割れたりするので、メンソレータムのリップクリームだけは買いますけど、あれは化粧品の部類に入るのでしょうか。
今ちょっと持ってきて見てみたら、正式名称は「メンソレータム薬用リップスティックXDc」とありました。
薬用。
やはり純粋に見栄えをよくするため、というよりは、くちびるを損傷から守る、という実用品扱いのようです。
「XDc」とか頭良さそうなアルファベットがついているあたりに説得力を感じます。
でもカテゴリーとしては、「医薬部外品」。
医薬界からははみ出しているけど、いちおうボクも薬だよ!という声が聞こえてきそう。
社会からはみ出しているけど、いちおう人間の私としては、非常に親しみを覚える存在です。
「美容」という項目に書かれている内容の一部を抜粋しましたが、サカモト(仮)は不覚にもにやっとしてしまいました。
こんな調子で隠居生活の全てが分かる本なんて他にありません。
隠居はそもそも社会との関わりの大部分を断つ人たちですから、その生活を詳細に知ることができる資料は少なくともサカモト(仮)は他に知りません。
隠居とホームレスやフリーターとの違い
またさらに興味深いのは、隠居と他の似た生き方との違いを述べている部分です。
具体的にはホームレスやフリーターとの違いを述べられています。
ホームレスとの違い
まずホームレスとの違いは、扁理さんによるとこのようなものらしいです。
ホームレスが完全に世捨て人だとしたら、隠居はそこまで世を捨てられていない、世離れ人とでもいうべき存在。
都会のいろんな誘惑が、隠居以外の全部が、手に届く場所にありながら、それらと意識的に距離を置いて生活している。また、そういう生活をするために少しだけ働くのは厭わない。
完全に捨てるのではなく、必要最低限に社会と関わっている、ここが隠居のポイントです。
これは非常に納得がいく点です。
隠居は社会と距離を置きますが、その距離はその時々の状況に応じて自分で変えることができます。
社会と関わりたくなければ断絶してしまえばいいし、世の楽しみを謳歌したいなら近づいてもいいのです。
自分が楽しむために社会との距離感を絶妙に調節する、モハメド・アリのような生き方なのです。
フリーターとの違い
また、扁理さんはフリーターを以下の3つに分類しています。
①今だけフリーター:止むにやまれぬ理由で一時的にフリーターになっている方。
②夢いっぱいフリーター:他のやりたいことのために、今一時的にバイトなどでお金をためながら生活している方。
③夢やぶれてフリーター:何かに失敗して夢も希望も生きる意味もなくフリーターをしている方。
これに対して、隠居とは異なる点をこう述べています。
①’:隠居は生き方みたいなものなので、一時的になる・ならないというものではない。
②’:隠居に夢や目標はない。強いて言えば幸せな今を「現状維持」すること。
③’:隠居は人生に過度な期待をかけていないので、何か大きなことに失敗することもない。
これもどれも納得のいく説明です。
今までいろんな隠居に関する本を読んできましたが、「確かにそうだよね」と思える主張だと思います。
隠居という古くて新しい生き方を知りたい方はぜひ
このように、ユーモアたっぷりでありながら知性を感じる本なので、隠居に対する理解も進みます。
「隠居っていう生き方もあるんだー」と、多様な人の生き方のひとつを楽しみながら知る本として手に取ってみてはいかがでしょうか。